2008年にノーベル物理学賞を南部陽一郎、小林誠両氏と共同受賞した理論物理学者、益川敏英さんの著書です。
「戦争のできる国」日本にさせるな!! 科学者の良心を示す「科学者は戦争で何をしたか」(益川敏英著・集英社新書)
amazonの内容紹介より
安全保障法制、解釈改憲…暴走する政治に反旗を翻す!
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏が初めて戦争をテーマにした書籍を刊行!
戦時中、科学者が大量に動員された歴史を振り返り、現在の日本が再び同じ道をたどろうとしていることに警鐘を鳴らす。
科学の進歩は何の批判もなく歓迎されてきたが、本来、科学は「中性」であり、使う人間によって平和利用も軍事利用も可能となる。
そのことを科学者はもちろん市民も認識しなければならないと説く。
理論物理学者ならではの本質を鋭く見抜く洞察力で、世界から戦争をなくすための方策を提言する。
目次
はじめに ノーベル賞受賞の記念講演で「戦争」を語る意味
第1章 諸刃の科学――「ノーベル賞技術」は世界を破滅させるか?
第2章 戦時中、科学者は何をしたか?
第3章 「選択と集中」に翻弄される現代の科学
第4章 軍事研究の現在――日本でも進む軍学共同
第5章 暴走する政治と「歯止め」の消滅
第6章 「原子力」はあらゆる問題の縮図
第7章 地球上から戦争をなくすには
あとがき
感想
いやはや、感動しました。
強い意志が貫かれています。
ノーベル賞受賞の記念講演で自らの戦争体験を語った益川さん。
名古屋空襲のときに自宅が焼夷弾の直撃を受け、たまたま不発弾だったために生き残ったのだそう。
こうした強烈な戦争体験と、恩師で理論物理学者、坂田昌一氏の教えがあるからこそ、益川さんは科学者としての良心を頑として持ち続けることができているのだと思いました。
「ノーベル賞を授与された研究は、人類の発展のためにも殺人兵器にも使用可能という諸刃(もろは)の技術…(中略)。科学に携わる人間ならば、そのことを身に染みて感じていなければいけない。」
「科学者である前に人間として、生活者の目線だけは失うまい。」
本書には、戦争体験やノーベル賞受賞の際に行った反戦演説への大学人からの中傷、官僚とのやり取りなど、ご自身が経験したエピソードも数多く盛りこまれています。
また、ダイナマイトの発明や無線技術の開発、さらには原水爆の開発に至るまで、科学が軍事利用されてきた経緯を丁寧に振り返りながら、科学者たちに警鐘を鳴らしています。
「『中性』であるはずの科学が使い方次第で恐ろしい兵器になってしまった歴史がある。」
「科学者は、軍事利用される可能性まで考えるべきだ。『知らなかった』ではすまない。そのためにも、常に社会とのつながりを持っていってほしい。」
「この世の中で生きていく限り、私たちは社会とのつながりを持たざるを得ないのです。そうであるなら、社会の中で生きるものとして、今、日本や世界で何が起こっているのか、あるいは秘密裡に何が進行しているのか、それに耳を澄まさなければなりません。その中で日本が平和に向かっているのか、逆の方向に進んでいるのか、科学者も含めて目を凝らして見てほしいと思います。」
2015年9月に戦争法案が成立。そして学術会議への露骨な介入という学問の自由への侵害……。
日本が、今までと質の違うレベルで戦争に積極的に加担していく国に、「戦争のできる国」にさせられようとしている今、益川さんの訴えは、科学者だけでなく国民全体への熱烈な呼びかけに違いありません。
多くの方々に読んでいただきたい1冊です。